名古屋高等裁判所 昭和29年(う)284号 判決
被告人 ○川○保こと石○寛○
按ずるに、少年事件につき公訴を提起するには、家庭裁判所に於て罪質及び情状に照し、保護処分よりも刑事処分を相当と認め、決定をもつて、事件を検察官に送致したものであることを要し、右手続を経ることなしに公訴が提起せられたときは公訴提起に関する手続規定に違反するものとして刑事訴訟法第三百三十八条第四号に基き公訴を棄却しなければならぬ(高等裁判所判例集第四巻第九号一〇九八頁参照)と解すべきで、少年が保護処分よりも刑事処分を希望するからといつて弁護人所論の如く右解釈を変更すべきいわれはない。控訴趣意書添付の戸籍抄本、被告人の当公廷に於ける供述、その他記録に現れたところによると、被告人は昭和十一年七月七日生れの少年であるところ、保護処分を嫌い兄○川○保の氏名、年齢を詐称して、検察官を誤らしめ、よつて前記の如き家庭裁判所の送致決定を受けずに公訴を提起せられ、原審に於ても被告人の母○千○が証人として証言するに当り、被告人の希望を容れ、被告人の詐称と吻合する如く陳述した結果、本件公訴提起上の誤りを発見するに至らず有罪判決を為すに至つたものと認められるので、控訴趣意は理由あり原判決は訴訟手続に違背あるものとして破棄を免れない。